Hari Raya休みを前にして陽性者が急増しているMalaysiaで,人工知能を用いた感染症対策HIDEが導入されました.
人々の行動情報から集団感染を引き起こしやすい場所を特定することを目的としていますが,人工知能による突然のお店閉鎖命令で混乱が広がっています.
この記事は,次のような方にお役に立てるように書いています.
こんな方におすすめ
- Malaysia在住の方
- Malaysiaの感染症対策に興味のある方
この記事の内容は次になります.
この記事の内容
- AIを用いた集団感染の事前対策HIDE
- Hotspotに指定されたお店・企業は即座に営業停止3日間
- 真の意味で感染riskが高い空間を特定することが今後の課題
Malaysiaで導入:人工知能HIDEで感染症危険場所を特定
Malaysiaで新たに人工知能を利用して,新型肺炎の感染症riskが高い場所を警告するsystemを導入しました.
このsysetemの名前は「HIDE」です.正式名称
Hotspot Identification by Dynamic Engagement
の頭文字をとった命名です.
HIDEは,Bank Negaraと保健省が共同で開発した感染症対策のsystemです.
”ワクチン大臣”こと,Khairy科学技術革新大臣は,5月7日(金),政府として感染riskの高い地域を早期に検出して対策を講じることで集団感染を阻止することを会見で述べました.
1. Putrajaya will publish lists of premises that have been identified as potential Covid-19 hotspots from Friday, under the Hotspots Identification for Dynamic Engagement system (HIDE).
MOSTI Minister Khairy Jamaluddin says this is will avoid the need for blanket lockdowns. pic.twitter.com/k0b8tg82YQ
— BFM News (@NewsBFM) May 5, 2021
HIDEを用いることで,感染症riskが高い場所(hotspot)を事前に人工知能に分析をさせて,行政が対応を打ちます.
Hotspotを早期に対処することで集団感染(cluster)を防ぐことができるとKhairy大臣は会見で述べました.
たとえhotspotと指定を受けたとしても,予防的な対策を講じて感染危険が下がった場合は,7日以内にhotspotの指定を取り下げるそうです.
今回の人工知能を使った感染予防的な対策を目の当たりにして,昔観た映画で『Minority Report』というTom Cruise主演の映画を思い出しました.
人工知能(予知能力者?)が将来起こる犯罪を予見して、犯罪が起こる前に、国家警察が犯罪を思考した人を逮捕してしまうというSF映画です.
オチは書きませんが、AIが絶対正しいと思って従う国家権力への皮肉になっています.
教訓のある映画なので,まだ観たことがない方はぜひ一度はご覧ください.
人工知能によるdystopiaは,現代こそ重要な問題提起になっています.
今回のHIDEは,事前に感染症が起きそうな地域を予言して,集団感染が起きる前に防ぐという発想は映画『Minority Report』と共通で面白いです.
現実の人工知能の設計にも欠陥がありそうであることが分かってきました.
次の章で,HIDEが指定したhotspotと問題点を書きます.
HIDEによる経済への砲火,怒る小売業界
2021年5月8日(土)に初めて,HIDEによって検出されたhotspot(感染riskが高い場所)のlistが公開されました.
Folks!
Below are the list of places given by HIDE systemIf i'm correct based on contact tracing it found that this are the places that every positive cases visited frequently
Do take note which are the places given by HIDE system as maybe that can prevent something as well pic.twitter.com/nFzcgcDuCn
— Malaysia COVID19 Updates (@malaysia_covid) May 8, 2021
Hotspot listに記されている施設の約90%は,shopping mallやsupermarketなどの商業施設・小売業です.
中には,駅名(KL Sentral,KLCC)や日系現地工場もHIDEにhotspotに指定されています.
今回のHIDE指定listをみた国民の典型的な感想は次のようでした.
Shopping mallは換気が良い広い空間で買い物をしているので感染riskは低そうですが,今回のlistと私たちの直感が矛盾している気がします.
直感ではなく,実際,Malaysia保健省の公開dataによると感染が多い場所 Top3は,次の通りです.
ポイント
- 工場 48%
- 生活地区 13%
- 建設現場 12%
Shopping mallに関しては,感染全体の5%以下という数字です.
5%以下という数字は直感ともあってきます.
HIDEが指定するhotspotの90%がshopping mallというのは,保健省の感染dataと符号しません.
Ismal Sabri上級大臣は追い討ちをかけるようにHIDEに指定された場所は5月9日(日)から3日間の閉鎖を命じました.
Updated: Premises listed in 'HIDE' ordered to close for three days immediately, says Ismail Sabri - Bernama https://t.co/eMpnAONkzY
— The Edge Malaysia (@theedgemalaysia) May 8, 2021
HIDEに指定を受けた施設に対する,3日間の突然の閉鎖命令を受けて国民は困惑が広がります.
AI任せにして,営業停止命令は残酷すぎるでしょう.
政府による風評被害対策もないです!
Hari Raya直前の商戦はAIによって終わらされるのね…
公共交通機関であるLRTの駅がHIDE指定listに含まれていました.
しかし,国民の必需serviceであることを理由に5月9日(日)以降も稼働を継続することが許可されました.
LRTは必需service のため、HIDE 指定を受けた駅は封鎖せず稼働 https://t.co/Z6ePh4u9vS
— こにゃん 🇲🇾 マレーシア再入国 (@Konyan_blogger) May 9, 2021
Hotspotと認定されたshopping mall,supermaketなどは,5月9日(日)から5月12日(火)までの3日間営業を停止して,消毒作業にあたります.
当然,shopping mallの経営者,小売業者はHIDEの発表があった5月8日(土)中に政府に対して猛抗議をしています.
HIDEに対する批判
すでに国民の間でも不満の声が高まっているHIDEにたいsて,DAP所属のTony Pua議員の批判が的確です.
Column: Tony Pua: HIDE poorly designed and assumptions behind data misguided - https://t.co/UUengEvTdK https://t.co/33z1xYgdC1
— The Edge Malaysia (@theedgemalaysia) May 10, 2021
議員のHIDE批判の論点としては次の3点です.
- HIDE指定施設の90%はshopping mallとsupermarket.しかし,いままで集団感染は報告されていない.
- 空間あたりのお客さんの密度を考慮されておらず,店舗あたりの訪問客の絶対数しか数えていないために大型商業施設ばかりがhotpspotになっている.
- むしろ,小型の職場や商業施設の方が人の密度が高く感染riskは高い.
要するに,「HIDEは人が集まっているところを抽出しているだけではないか」という批判です.
言い方を変えると,例えば換気の悪い密閉した狭いお店だと,お客さんの数がそもそも少ないので陽性者が訪れる可能性が低く,HIDEが検出しないということになります.
HIDEの人工知能algorithmは公開されていないので,私の憶測でしかありませんが,Tony Pua議員の指摘はおそらく正しいでしょう.
HIDEは,Malaysiaの感染症対策app「MySejahtera」から人々の行動情報を集計しています.
参考
感染症追跡app「MySejahtera」は,日本では「Cocoa」が相当します.Malaysia国内では,お店に入店する際は必ず「MySejahtera」を立ち上げてお店のQR codeを読み込んで入店記録をつけることが義務付けられています.
大型施設であろが,小型施設であろうが割り当てられる「MySejahtera」のお店側のQR codeは一つです.
Bukit Bintangにある大型shopping mall『Pavilion』の敷地面積は160万㎡ですが,QR codeは一つしか割り当てがありません.
一方で,1000分の1しか広さのない,1,600㎡の職場でもQR codeは一つです.
お店それぞれに割り当てられるQR codeは一つにも関わらず,対応する敷地面積は考慮をされていません.
今回のHIDEは,過去のMySejahteraで登録されたお店のQR code履歴と陽性者の相関をとって,陽性者が頻繁に訪れた場所を並べただけではないでしょうか.
結果的に,敷地面積が広いshopping mallばかりがhotspotとして閉鎖されて,代わりに密になりやすい小型店ばかりに人が集中することになりかねません.
今回のHIDEは小売業に対する風評を生むばかりか,効果のない感染症対策を人々に強いる結果になっているように思います.
まとめ
MCO 3.0が発令中(一部地域のみ)のMalaysiaで導入されたHIDEは,大きな混乱を小売業および消費者にもたらしました.
人工知能を用いて集団感染を引き起こす可能性が高い場所を事前に検出するという試みは興味深いです.
しかし,”集団感染”を引き起こす条件は何かを人工知能に教えることが不充分であるようです.結果的に,人工知能は単に人が集まっているところをhotspotとして並べるだけとなりました.
行政側の対応も改善が必要です.
各企業,商業施設ともに政府が定めたSOPを遵守しているにも関わらず,急に3日間の営業停止を言い渡すことはあまりにも酷です.
HIDEのhotspot指定は,あくまで施設のSOP対応が悪いのではなく,陽性者が頻繁に訪れていることを指摘しているにほかなりません.
少なくともshopping mallは閉鎖対象にせずに,shopping mall内の個別のお店を調査対象にするなど感染症の温床を細かく分析していくことが求められます.
ここまで本記事をお読みいただきありがとうございます.
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