密輸組織に手を貸した,入国管理局員の報道が目についたので内容を紹介します.
背景には,根深いMalaysiaの社会問題が潜んでいます.
今回の報道の背景には,Malaysiaの外国人労働者受け入れと労働力不足があります.
世界的に流行している新型肺炎の影響で,Malaysiaでも移民をより排斥する方向に進み,一方で国内の失業率は上昇ました.
日本にも共通する問題ではありますが,Malaysiaにいる今の方が身近に移民問題を感じます.
KLIAで私も一度,手錠をされて鎖に繋がれた不法移民たち20人ほどが警察官に連行されて強制帰国される姿を目撃したことがあります.
不法移民たちは靴も履かずに,鎖に沿って一列に並んで歩いていく光景を見た時は,衝撃的でした.
堕落した入国管理局,不法移民補助
腐敗した入国管理局
2020年11月20日,MACC(Malaysian Anti-Corruption Commission,Malaysia汚職対策委員会)は,国際的な密輸犯罪に関する調査の中で入国管理局の職員を3人逮捕しました.
→ New Strait Times: 3 more arrests involving Immigration officers, including deputy director
逮捕者の中には,KLIA(Kuala Lumpur国際空港)に駐在する所長代理も含まれています.
入国管理局の組織全体が腐敗している可能性を疑いたくなります.
”Ops Selat”と名前が付けられた汚職調査の一環で.53人(内,33人の入国管理局員)が密輸犯罪の調査ですでに逮捕されています.
世界に拠点を持つ密輸犯罪
密輸犯罪は,5カ国に拠点を持つ組織により国際的に行われていました.
- Malaysia
- 中国
- Vietnam
- Indonesia
- Bangladesh
MACCの没収した資産
今回のMACCが没収した資産には,次のものが含まれています.
没収された資産
- 現金RM800,000(日本円 約2,000万円)
- 高級車 26台
- 大型バイク 4台
- 家,土地
- 宝石など
低所得の入国管理局員が高級外国車を保有
今回の逮捕劇の中でも調査捜査官を驚かしたのは,低い職位の入国管理局員が高級外国車4台を所有していたことです.
没収された高級外国車
- Rolls Royce Phantom
- Mustang
- Range Rover
- Audi
その入国管理局員は,KP 19と呼ばれる公務員採用枠で雇用されていました.KP 19の給料水準はRM1,360-RM4,052(日本円 36,00円-106,000円)ですので,高級外国車を自分の給料で買えるわけがありません.
月給4万円程度の公務員が,日本円で500万円もする外国車を4台も所有していたのですから,開いた口が塞がりません.
高級車の所有権は中国国籍2名のものですが,実質的に車は入国管理局員のみが使用していました.
MACCは,中国国籍2名も現在追跡中とのことです.
この入国管理局員は,klia2に勤務をしており,密輸幇助の見返りとして車を与えられたと見られています.
密輸組織の犯罪内容
密輸組織は,外国人労働者の不法入国を組織的に行っていました.
→FMT: 27 immigration officers among 46 held as MACC busts syndicate
密輸組織の主な犯罪内容
- 外国人の不法滞在と不法労働の補助
- 出国禁止者の違法出国補助
外国人の不法滞在と不法労働の補助
一つ目の犯罪は,不法滞在と不法労働の補助.
密輸組織は,外国人を普通のvisaで入国させた後,入国管理局員に賄賂を渡して,3ヶ月おきにpassportに出国と入国の判を押してもらっていました.
もちろん外国人はMalaysia国外に出ておらず,手続き上だけの出入国を繰り返して,Malaysiaに不法滞在をします.
不法滞在をした外国人は,通常のvisaで入国したにも関わらず労働者としてMalaysia国内で働きます.
本来であれば,労働者visaの取得が義務付けられています.
出国禁止者の違法出国補助
2つ目の犯罪は,出国禁止者の出国補助です.
出国禁止者のlistに載っている人が,KLIAの出国counterに行き,予め賄賂を渡している入国管理局員が出国の判を押して出国を手助けします.
違法に1人出国を助けるたびに,最大RM3,000(日本円 75,000円)を賄賂として取引されていたと報道されています.
先ほどのKP 19の公務員の給料は,高々RM4,052(日本円 約110,000円)です.自分の給料に満足できない公務員の心が賄賂に揺れ動かされてしまったわけです.
組織犯罪による不法移民
今回の件が,不法移民犯罪は今年初めてではありません.
前回のCMCO 1.0中の2020年6月にも,違法に外国人を入国させた密輸組織がJohor州警察により摘発されています.
前回の摘発では,40名が逮捕され,内21名はMalaysia国籍,残り19名はIndonesia国籍でした.
州警察発表によると,密輸犯罪組織は月に500-600名の外国人を違法にMalaysiaに出入国させていたとのことです.
→The Star: Johor cops smash human-trafficking syndicate with arrests of 40 people
犯罪組織は,Johor州東海岸で活動をしていたそうです.
没収された品の中に,8隻の船が含まれていましたので,海路での密出入国を行っていたと推測されます.
違法に出国,入国をするたびにRM1,200-1,300(日本円 約32,000円)を違法移民から徴収していました.
6月の摘発では,入国管理局の局員が関連していたという報道はありません.
外国人労働力頼りのMalaysia
海路での密出入国は,命の危険と常に隣り合わせです.
漁船などの船底に隠れて,劣悪な船底の環境を耐え忍んでMalaysiaに違法移民としてやってくる外国人.
もちろんMalaysiaに,働き口があるからです.
3D職場の労働力不足
Malaysiaは,工場,建設,農園などの3Dの職場は,労働力不足となっています.
ポイント
Malaysiaでは3K(危険,きつい,危険)の仕事のことを,3D(Dangerous,Difficult,Dirty)と呼びます.
2020年武漢肺炎の蔓延を受けてMalaysia国内では失業率が上昇しました.
政府は国民に仕事を選り好みせずに就職先を見つけるように呼びかけていますが,Malaysia人は3Dの仕事を避けて,安全で快適で給料の高い職場を選択しています.
結果として,3Dの職場は慢性的な労働力不足となり外国人労働者だよりとなっています.
移民排斥と労働力確保の間で揺れる政府
工場など単純労働に近い,外国人労働visaの新規発行を2021年6月30日まで見送ることをMalaysia政府は決定しています.
目的は新型肺炎により落ち込んだ失業したMalaysia国民に優先的に雇用先を斡旋するためでしたが,政府の狙いとは裏腹に国民は3D職場を避けています.
結果,Malaysia政府は移民政策に対して態度を軟化させてきました.
11月12日Malaysia政府は,不法移民再構成政策(Undocumented Migrant Recalibration Plan)を提案しました.2021年6月30日までの間に,
- 不法移民に自主的に帰国してもらうか,
- 3Dの仕事(建設,工場,農園)に就くことを政府が認めます.
→ FMT: Govt to ‘regularise’ undocumented foreign workers, subject to conditions
新型肺炎で落ち込んだ経済を再起動するため,短期的には良い政策だと思います.
外国人労働者に関する人権問題
不法移民は雇用主に迫害されるなど人権問題も抱えています.
移民が不法で働かざるを得ない状況が起きていますがく,早く合法的に働ける環境が必要です.
不法移民を斡旋する犯罪も,政府の移民規制が厳しすぎることが一因です.
私は,労働力の助けとして働けるように移民を受け入れて行かざるをえないと思います.
政府と民間の間で労働力について考え方の行き違いがあるため,今回のような犯罪組織に付け入る隙を与えています.
まとめ
Malaysiaの社会問題として,外国人労働者受け入れと労働力不足があります.
移民の労働力にはMalaysia経済が立ち行かないことは,政府も分かっているはずです.
そして,政府は不法移民の存在をどうにか解決したいと思っていながら有効な解決策を示せていません.
移民を受け入れていくのか,排斥するのか.
移民を排斥するなら,どうやって労働力を確保するか.
労働力の需要と供給はあるのに政府の移民排斥により,労働力市場に隙間が生まれています.
この隙間を狙う犯罪組織が介入する構図は,Malaysiaの大きな社会問題となっています.