近い将来Malaysiaに移住して,日本円の資産をMYR(Malaysia Ringgit)に両替して定期預金の利息だけで現地生活できますか?
Malaysiaの定期預金は確かに高い金利ですが,物価が上がっているので,資産を切り崩しながら生活することになります.
本記事では,「定期預金の利息だけを頼りにMalaysiaで生活するのは難しい」ことを解説します.
私はMalaysia駐在員として3年間Malaysiaで生活をしています.
駐在員になった時から定期預金の利息だけで生活できるのではないかと私も考えていたことがあります.
実際に,現地の給料をMYR建てでもらうようにして,定期預金に預けて2年以上預けています.
この記事では,定期預金の利息だけで生活できるかを考える上で気をつけなければならない3つの罠を紹介します.
- 金利の罠
- インフレの罠
- 為替の罠
定期金利のことを批判的に書いているつもりはなく,定期預金は必要なことだと思っています.
Malaysia定期預金の金利
Malaysiaの定期金利は2020年3月以前は3%ほどありました.
「Malaysiaの金利が恵まれていて,Malaysiaの定期預金の利息だけで生活できるのではないか」と多くの日本人が見せれることは納得です.
日本の金利と桁違いのMalaysiaの金利
日本の定期預金の金利は0.002%程度ですので,いかにMalaysiaの定期預金金利が高いか一目瞭然です.
仮に1,000万円を日本の銀行に預けていても普通預金の利息は約200円です.
Malaysia定期預金の利息は依然魅力的で,うまく定期預金を活用することでMalaysia生活でのお金の付き合い方がずっとうまくいくと思います.
ポイント
Malaysiaの定期預金金利は日本の1000倍.
Malaysia定期預金の金利推移
Malaysaの政策金利は2020年までは安定的に3%ありました.
2020年3月以降,武漢肺炎の蔓延によりMalaysia政府は経済凍結させる苦渋の選択をしました
Malaysiaの中央銀行にあたるBank Negaraは,2020年7月から2021年7月現在までOPR(長期金利)を歴史的低水準の1.75%に据え置いています.
資金繰りが悪い企業への貸付の際の金利が下がりましたが,同時に国民が預入している定期預金の金利も同時に3%から一気に1.75%近くまで下がりました.
次のgraphは,年代別の定期預金の金利を表しています.
source: tradingeconomics.com
Graphには2021年の数値が入っていませんが,Malaysiaとしては超低金利といえる水準に突入しています.
ポイント
2020年7月以降,Malaysiaとしては”超”がつく低金利時代に突入しましたが,まだ日本の金利に比べると随分と良いです.
Malaysiaの生活費
これからMalaysiaに移住する方の参考になればと思い,私のblogでも定期的に私の家計簿を公開しています.
過去の家計簿に関する記事をあわせてご覧ください.
-
【2021年6月度版】マレーシア駐在員の生活費公開
続きを見る
Malaysiaの生活費の感覚がつかめてくると,自分がどれだけ資産を用意していればMalysiaに移住して定期預金の利息を活用しながら生活できるか検証できるようになります.
家賃込みの生活費 RM 5,000(日本円 約13万円)
私はMalaysiaの首都Kuala Lumpurに住んでいます.
2021年5月の家計簿は次になります.
2021年5月 生活費 | RM | 日本円 |
食材 | RM 719 | ¥ 19,082 |
外食 | RM 952 | ¥ 25,266 |
交際 | RM 0 | ¥ 0 |
日用品 | RM 20 | ¥ 531 |
書籍・学習費 | RM 371 | ¥ 9850 |
電気・水・ガス | RM 50 | ¥ 1,327 |
通信費 | RM 198 | ¥ 5,255 |
その他 | RM 118 | ¥ 3,132 |
合計 | RM 2,428 | ¥ 64,443 |
生活費は一見安く見えるのですが,家賃は会社負担になっていることが大きな要因です.
Kuala Lumpurで一人・二人暮らしをする部屋を借りようとすると,RM 2,500以上はかかります.
ポイント
- 首都Kuala Lumpurに一人暮らしで生活しようとすると,家賃込みの生活費はRM 5,000(日本円 約13万円).
- 二人暮らしの場合,家賃込みで生活費はおおよそRM 7,000(日本円 18万円)くらいになります.
金利だけでMalaysiaで生活するにはいくら必要?
定期預金の利息だけ生活するには,元手となる貯金がいくら必要か考えてみます.
簡単な算数で必要な貯金額が求まりますので,ぜひ実際に計算をしてみてください.
計算例
単純に考えると,定期預金の利息だけ生活するのに必要な貯金額は次の式で求めることができます.
$$\text{必要な貯金額} =\frac{\text{1年間の生活費}}{\text{定期預金の金利}}$$
首都Kuala Lumpurに一人暮らしをして月の生活費がRM 5,000だとすると,年間の生活費はRM 60,000(日本円 約1,560,000円)になります.
2021年7月時点の定期預金の(1年定期)金利は1.75%ですので,定期預金の金利だけで生活するのに必要な貯金額は,
$$\frac{\text{RM }60,000}{1.75\%} = \text{RM }3,428,571 $$
日本円で約9,000万円です.
この規模の金額だと,資産の一部を日本で5%程度の利回りの投資信託に投資することで,働かずに生活できる金額になります.
ポイント
首都Kuala Lumpurに一人暮らし前提で,金利 1.75%のときに定期預金の利息で生活するには貯金がRM 3.5百万(日本円 約9千万円)必要.
次の章からは,実際に定期預金の利息を頼りに資産計画を立てるときに気をつけなければならないことを3つ紹介します.
金利の罠
まずは,「金利の罠」について解説します.
金利は1%変わるだけで,必要な貯金額が何千万円と変わってくる非常に影響力の大きい数字になります.
1%金利が切り下がると?
仮に,2020年前半の金利3%だったとすると,首都Kuala Lumpurに一人暮らしで金利だけで生活するのに必要な貯蓄額は,
$$\frac{\text{RM }60,000}{3.0\%} = \text{RM }2,000,000 $$
日本円で約 5,500万円です.
金利が3%の場合と1.75%の場合で,必要な貯蓄額に3,500万円もの差が生まれます.
かつては定期貯金の金利が3%が当たり前だと思って資産運用の計画を立てていた知り合いもいます.
いざ政策金利が1.75%まで切り下がるとMalaysia移住の資産計画が大きく狂うことになりました.
ポイント
政策金利が1%切り下がると,定期預金の金利だけで生活するのに必要な貯蓄額はRM 1,000,000(日本円 2,600万円)増える.
インフレの罠
次に「インフレの罠」について書きます.
前の章で,定期預金の金利だけで生活するのに必要な貯蓄額を考えましたが,重要な前提を暗黙のうちに認めていました.
日本人なら当然だと思う前提なのですが,海外,特にMalaysiaでは成り立たない前提です.
それは,「インフレーション(インフレ,物価上昇)」です.
物価は上がって当たり前という世界
日本は1980年代以降,40年以上もデフレ(物価が継続して下落する現象)となっていました.
日本の人件費・モノの値段は毎年同じ,もしくは安くなっているという価値観がすっかり定着しています.
しかし,新興国に行くとインフレが当たり前の経済環境になっていて,価値観が180度違います.
昔,Vietnamに旅行したときに道路に落ちたお札が踏みつけられて,クシャクシャになっているのをみて「超インフレの国で生きていると,誰もお金を拾わなくなるのか」といやに感心したのを覚えています.
ポイント
インフレの国ではお金の価値はどんどん下がるので使わないと損.
CPI(消費物価指数)
Malaysiaの物価が実際にどのように年々推しているかみてみます.
参考にするのはCPI(Core Pirce Index)です.
メモ
CPI(core price index)は,消費者物価指数と訳されます.
CPIは,消費者が購入する物品の価格を昨年度比でどれだけ変化したかを表す指標です.
季節性の変動が大きい,生鮮食品,石油などの項目は除外されています.
Malaysiaの過去5年間分のCPI(Core Pirce Index)の推移は次のgraphになります.
source: tradingeconomics.com
ポイント
2016年から2021年の5年間は,ほぼ1-2%ずつ年間で物価が上昇している.
物価が上昇するとお金の価値が減少する
モノの価値が上昇すると,相対的にお金の価値は減少します.
例えば,100円で買えた飲み物が,来年になると110円になっているとすると,”100円”という現金の価値が一年後に約10%相対的に下がったことを意味します.
インフレの世界では,銀行の口座上の現金は減っていなくても,外の世界で買えるものが徐々に減っていきます.
ポイント
Malaysiaでは定期的にレストランの食事の料金が値上がります.
インフレ率を考えて貯金を増やす
モノの価値が上昇する一方で,お金の価値が下がるMalaysiaでは,インフレ率を計算して資産計画を立てないといけません.
定期預金の利息だけ生活するのに必要な貯金額を求める式は,インフレ率を考慮して修正する必要があります.
1年後のインフレを考慮して,定期預金の金利だけで生活するのに必要な貯金額は次になります.
$$\text{必要な貯金額} =\frac{\text{(1年間の生活費)}\cdot\text{(100%+インフレ率)}}{\text{定期預金の金利}}$$
インフレ率が1%だとすると,物価が変わらない場合と比べて必要な金額は1%だけ増えます.
例えば,20年もずっと金利だけで生活しようと思うと,現在の貯金額を20%以上増やさなくてはなりません.
ポイント
インフレ率を考慮して,現在の貯金額を計算する必要があります.
20年間利息だけで生活するには1億円越え
例として,次のような前提で利息だけで生活するのにいくら必要か計算してみます.
- 金利 1.75%
- インフレ率 2%
- 初年度の生活費 RM 60,000(日本円 約1,560,000円)
- 対象期間は20年間
インフレ率が0%のときは,利息だけで生活するのに必要な貯金額はRM 3,428,571(日本円 約9千万円)であることをすでにみました.
さらに,インフレ率2%かつ利息で生活する期間が20年だとすると,約RM 48,000,000(日本円 1億3千万円)必要になります.
ここまで読んでいただいた読者の方は,定期預金の利息だけで生活することは膨大な貯金が必要であり,現実味がないことがわかっていただけると思います.
実際は,少しずつ定期預金の元本を切り崩しながら,定期預金の利息とあわせて生活することになります.
ポイント
20年間という期間,定期預金の利息だけで生活するには,1億円相当以上の貯金が必要になります.
為替という落とし穴
最後に,「為替の罠」についてふれます.
Malaysiaに移住して定期預金の利息だけで生活しようと考えると,いつ日本円の預金をMYRに両替するか考えなくてはなりません.
一度にMYRに両替することは大きな危険があります.
私の経験:MYR貯金したら7%損
Malaysiaの定期預金の金利は1.75%であっても,日本の利息に比べたら何千倍も良いです.
一度に日本円の資産をMYRに両替して,Malaysiaの定期預金に預けたくなる魅力にかられると思います.
私の会社では,給料を日本円とMYRのどちらでもらうか配分を決めることができるのですが,私はMYR建てで100%もらいました.
理由は,Malaysiaに移住したばかりで手元の給料がなかったこともありますが,定期預金を活用して利息だけで生活できるのではないかと夢見ていたからです.
しかし,日本円に対してMYRの価値がは1年間で10%以上も暴落するということが起きて,結局MYR建ての日本円評価額は10%も減ってしまいました.
はっきり言って,利息が3%あったとしても,為替の損が大きすぎて,合計では7%近い損となりました.
”たられば論”になりますが,最初から日本円で給料をもらっておいて,1年後にMYRに変換していれば,いまよりも7%近くMYR建ての預金が増えていました.
ポイント
定期預金の金利だけでなく,為替の影響も考慮して時間軸を持って両替する.
高金利通貨の価値は,金利分だけ逓減する
MYR(Malaysia Ringgit)のような高金利の通貨は,長期的には通貨安になると言われています.
したがって,MYR建ての資産は,利息を除くと,日本円を基準にして年々相対的に価値が逓減していきます.
為替は金利以外にも,様々な要素で決まるので短期的な為替の方向性を予言することはできませんが,長期的には金利分だけ通貨安になります.
ポイント
高金利の通貨は長期的には通貨安.
様々な通貨に資産を分散
インフレについて説明した章で,「20年間利息だけで生活するには預金が1億円以上必要」と説明しました.
すでにMYR建ての資産を持っていないならば,暗黙の前提として初年度に日本円の1億円を全てMYRに両替する必要があります.
これがいかに危ない選択かもうお気づきかと思います.
結論としては,すでに莫大な資産をMYR建てで持っている方以外は,毎年必要な金額を日本円からMYR建てに両替しながら,余ったお金を定期預金で利息をもらうことが良いと思います.
ポイント
毎年必要な額を日本円からMYRに両替して,為替のリスクを抑えます.
まとめ:MYRと日本円に資産を分散,MYR余剰資金は定期預金
物価が安くて,金利の高いMalaysiaで,定期預金の利息だけで生活できるか解説をしました.
3つの罠を一つずつみていくことで,定期預金の利息だけでMalaysiaで生活することは難しいことが分かっていただけたかと思います.
- 金利の罠
- インフレの罠
- 為替の罠
2021年Malaysiaの低金利とインフレ率を考えると,利息だけで生活するには次の貯金が必要なります.
ポイント
20年間という期間,定期預金の利息だけで生活するには,1億円相当以上の貯金が必要になります.
多くの人がMYR建ての資産を用意するには,いつか日本円の資産を両替する必要があります.
MYRは高金利通貨であるだけに,長期的な通貨安のリスクに備える必要があります.
ポイント
毎年必要な額を日本円からMYRに両替して,為替のリスクを抑えます.
定期金利のことを批判的に書いているつもりはなく,定期預金は必要な資産運用の方法だと思っています.
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長期的に安定的な資産運用を考える上で本記事が一助になれば幸いです.
ここまで本記事をお読みいただきありがとうございます.
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