Franceで現地時間10月16日,Islam教預言者の風刺画をめぐる痛ましい教師殺害事件が発生しました.
国教がIslam教であるMalaysiaでも,政治家を含めて多くの発言が聞かれました.
2020年10月29日,Mahathir元首相が「Islam教徒は,過去にFrance人によって虐殺された過去をもち,怒り,何百人もを殺害する権利がある」と自説を発表して物議を醸しています.
事件のMalaysia国内への影響とMahathir元首相の発言内容をまとめました.
Islam教過激派による仏教師殺害事件
Franceで現地時間10月16日,Islam教預言者の風刺画をめぐる痛ましい教師殺害事件が発生しました.
地理歴史学教師Samuel Patyさんが,授業中にIslam教の預言者の風刺画を生徒にみせました.
倫理に関する授業で表現の自由を教えることを目的に,2015年Charlie Hebdo社(週刊風刺新聞)に掲載された預言者Mohammedの風刺画を教材に使用しました.
Islam教では偶像崇拝を禁止していて,神や預言者のいかなる描写も侮辱とされます.
Patyさんの授業に参加していた生徒の一人が親に相談をして,その親がInternet上でPatyさんを非難する活動を展開しました.
Patyさんの批判活動に参加した,一人の男がPatyさんを待ち伏せて殺害をします.
→BBC: 容疑者は学校前で生徒たちに探している教師がどれか教えろと パリ近郊の教師殺害
Malaysia国内のIslam教徒への波及は?
Malaysiaの国教は,Islam教です.
統計は古いのですが2010年時点の統計では,Malaysia人口の内,61%はIslam教信者です.
Irlam教が過半数を占めるMalaysiaですので,仏教師殺害に関するnewsは注目されていると私は思います.
Malaysia政治家の中にもIslam教信者は多いです.
Malaysia政府は中立の立場
表現の自由を擁護するFranceのMacron大統領の発言に反発するIslam国家が出てきており,仏国製商品の不買運動が起きています.
Malaysia国内ではFrance製品の不買運動を呼びかける動きもありましたが,Malaysia政府としては,France製品不買運動を支持せず,中立の立場をとっています.
私の周辺でも,France製品不買運動が実際に行われているという印象はありません.
JAKIM(Malaysia Islam教発展団体)の局長は,Charlie Hedbo社の預言者の風刺画を批判しました.
一方で,Malaysia国内のMuslimには法や宗教の境を超えた行動を起こさないように呼びかけています.
Macron大統領の写真を踏みつけて遺憾の意をあわらす国内newsはありましたが,表立った混乱や暴動は起きていません.
そんな中,Mahathir元首相が急に問題の発言をして,騒ぎを起こしています.
Mahathir元首相による,怒りの『目には目を』発言
Mahathir元首相は,2020年10月29日,自身のblogとTwitter accountで,次の意見を表明しました.
10月29日は預言者Muhammadの生誕祭で,Malaysiaは国家休日でした.
Mahathir元首相の発言
連続投稿の中の12番目のTweetです.直訳すると,
「12. Muslimは,過去の大虐殺の責任のために怒り,何百ものFrance人を殺害する権利がある.」
Mahathir元首相の過激なTweet内容に,非難と困惑の声が数多くあがりました.
Mahathir元首相は自身のTweetを削除することはありませんでした.
France政府の猛抗議によりTweet社原文削除
France政府が猛抗議をTwitter社に行い,最終的に「暴力を助長している」ことを理由に該当Tweetは削除されました.
13の連続Tweetのうち,該当の12番目だけが削除されています.
該当TweetはMahathir元首相のblog内容を投稿したもので,あくまで内容の一部です.
Mahathir元首相本人によるblog記事はまだ削除されていません.
「目には目を」原文の要約
Mahathir元首相のBlog記事を要約します.原文は英語ですので,ぜひ原文もご確認ください.
- 殺害は,Muslimにとって許された行為ではない
- 表現の自由の名の下に,他人を傷つけてはいけない(文脈では,預言者の風刺画によるMuslimを侮辱することを指しています)
- Malaysiaは多民族,他宗教国家である.信頼と相互承認なくして平和と安定はない.
- Macro大統領は,Isram教と教徒を批判するばかりで非常に浅はかである.
- France政府は,歴史上数えきれない人を殺戮してきた.大部分はMuslimである.
- Muslimは,過去の殺戮を理由に,数百万のFrance人を殺害する権利を持つ.
- 概してMuslimは,"目には目を"に則った復讐をしてこなかった.そして,これからもしない.France人も復讐をすべきではない.
- France人は,他人に寛容になり,他人の気持ちを尊重すべきだ
- France政府は,仏教師を殺害した男のしたことを理由に,Isram教と教徒全体を批判した.MuslimはFrance政府を罰する権利がある.
- France製品不買運動では,France政府の数年来の過ちを償わせることはできない.
宗教,民族の違いを乗り越えて平和を目指そうと書いている一方で,後半の項では一方的にFranceの不寛容を責め立てています.
Mahathir元首相は,France政府には寛容を求めるが,France政府を罰するためならMuslimは何をしても良いという不釣り合いな寛容さです.
平和と融和を説く一方で,単純な平和主義を唱えない点は,Malaysia国家の首相として長年の対立の経験から来ていると私は察しました.
友愛だけでは語れない,宗教に関わる問題の根深さを知り尽くしているのだと想像します.
武漢肺炎で苦しむ世界各国.Malaysiaも例外ではありません.
今は,宗教,民族対立を煽動している時ではありません.
生きるlegendと呼ばれる「Dr. D」
国際的にも強い影響力・発言力のある元首相という立場だからこそ,平和に向けてその影響力を正しい方向に行使して欲しいです.
その他にも,西洋女性の服装に対して(ハレンチだと)批判をしたり,やや古風な価値判断を主張しすぎていると感ぜざるをえません.
最後に
Mahathir元首相の娘Mariana Mahathirさんは,翌日10月30日,自身のTwitterで次のように呟かれています.
— Marina Mahathir (@netraKL) October 30, 2020
India独立の父,Mahatma Gandhi氏の名言を引用しています.
「『目には目を』は世界は暗くする,血を血で洗っても暴力はなくならない」
Mahathir元首相の問題発言に関しては私は支持する立場ではありません.
過去の悲惨な出来事を忘れ去れませんが,暴力の連鎖は断ち切るべきです.