MalaysiaのMuhyiddin首相は,2021年1月12日にMalaysia全土を対象とした非常事態宣言が国王に合意されたことを発表しました.
これをもって,Malaysiaは1月11日から8月1日までの期間,非常事態宣言が施行されることになります.
Malaysia国外では衝撃的なnewsとして報じられていますが,非常事態宣言の背景と国民の受け止め方を理解すると違うように見えてきます.
不意打ちのMalaysia非常事態宣言
Muhyiddin首相は特別会見の場で,2021年1月12日にMalaysia全土で非常事態宣言を発令することを発表しました.
Muhyiddin首相による,当日非常事態宣言の特別会見はYouTubeで観ることができます.
不意打ちの非常事態宣言
緊急事態宣言がなぜ不意打ちだったかというと,特別会見の前日の1月11日に首相がMCO(Movement Control Order,行動制限令)を主要都市を対象に発令をしたからです.
いわゆるlockdown(都市封鎖)といえる,国民の権利を制限して感染症の抑え込みを宣言したばかりにもかかわらず,翌日に追加で緊急事態宣言を発令しました.
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MCO 2.0の導入,医療を守る砦か経済を壊滅させる劇薬か【マレーシア 感染症対策】
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劇薬といえる都市封鎖を発令したことで,国民の活動は大部分制限されることになりました.
正直私も,緊急事態宣言の報道を聞いた時は,MCOと非常事態制限を同時に実行する意味が分かりませんでした.
ポイント
MCOが発令された1月11日の翌日12日に,Malaysia全国に非常事態宣言が発令された.
非常事態宣言の内容を振り返り,緊急事態制限に至った背景を探ってみたいと思います.
非常事態宣言の首相会見
- 国民生活には大きな影響はない
- 感染症患者のための医療機関を確保する
- 国会は閉鎖して,総選挙は延期
非常事態宣言の内容をまとめます.
ポイント
- 憲法第150条第1項に基づき,Malaysia全土を対象とする非常事態宣言の提案を国王が合意
- 本措置の実行は,2021年1月11日から8月1日まで.感染症の状況で早めに終了する可能性あり.
- 緊急事態宣言の目的は,新型肺炎の感染抑制.加えて,いくつかの地域で発生している洪水.
- 緊急事態宣言は,軍事クーデターではない
- 夜間外出禁止令は発令されない
- 緊急事態宣言中も,経済活動は行われる
- あらゆる選挙活動は取りやめとなり,総選挙は延期
- 国会が閉会する一方で,国王による条約の制定が可能になる
- 民間病院を借用して,感染症患者の受け入れを可能にする
- SOP違反者への罰則強化
- 買いだめ,物価の不当な吊り上げを防止
→Malay Mail:Ten things to know about: Malaysia’s Emergency 2021
非常事態宣言の目的とは?
非常事態宣言の発令される前に,すでにMCO 2.0が発令されています.
非常事態宣言の目的は「感染症の拡大防止」と首相は特別会見で述べていますが,MCO 2.0だけでも充分に国民の行動を制限して感染症を抑え込むことができるはずです.
過去の緊急事態宣言の発令内容を見ると,夜間外出禁止令が発令されています.
今回の緊急事態宣言の内容を見る限り,国民の私権を制限する部分は少ないです.
過去の非常事態宣言の内容は下記記事をご覧ください.
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2回目のCMCO 11日目,CMCO解除まであと3日で再び事態混乱へ
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緊急事態宣言の目的はむしろ「総選挙の延長」にあったのではないかと私は考えています.
2020年3月に発足したMuhyiddin政権は,与党連合で国会の過半数を辛うじて獲得していますが,支持数は流動的で危うい政治運営を強いられています.
首相は着任後,一度も国民投票による総選挙を行っておらず,2021年の総選挙で国民の信用を得られるか不透明です.
与党連合の中でも最大の議席数を持つUMNOからは早期の総選挙を求められており,Muhyiddin首相は総選挙の時期判断で板挟みにあっていました.
非常事態宣言により総選挙を延期して,首相自身の政治生命を延命したと言われています.
もし,本当に総選挙の延長が目的であったとすると,Muhyiddin首相の作戦通りの結果となりました.
感染症が再拡大をするのを恐れて,総選挙を延期する緊急事態宣言という苦渋を強いられたというMuhyiddin首相.
私には白々(しらじら)しく聞こえました.
Parliament will be suspended during the emergency and no election can be held says PM Muhyiddin who doesn’t want to see a repeat of outbreaks after Sabah state election last September. https://t.co/h7F1dmcGQt
— Melissa Goh (@MelGohCNA) January 12, 2021
ポイント
非常事態宣言の表向きの理由は,感染症対策に国が一丸となり取り組むためです.
一方で,Muhyiddin政権の延命のために国会を閉鎖して,総選挙の時期を後ろ倒しにしているとも言われています.
前日のMCO 2.0会見は録画?
少し混乱をしますが,非常事態宣言は会見の行われた1月12日の1日前,1月11日から有効になっています.
国王の合意が得られた1月11日が起点となっています.
1月11日17:30,Muhyiddin首相は国王に謁見して非常事態宣言を提案したとされます.
謁見した時間は45分.したがって,18:15に首相は国王の元を去ったと思われます.
一方で,Muhyiddin首相は18:00から国民向けにMCO 2.0発令の会見を中継で行っています.
噂では,事前に録画した会見内容を会見時間に放映したと言われています.
非常事態宣言でMalaysia国民の生活はどう変わる?
非常事態宣言だけを論じるならば,国民生活への影響は大きくありません.
Malaysia国外では,「Malaysia,8月1日まで非常事態宣言発令」という報道が大々的に伝わっっています.
むしろ,1月13日から1月26日まで施行されるMCO 2.0の方が国民生活への影響が大きいです.
今の時点では緊急事態宣言による国民生活の影響は少ないと考えていますが,懸念はあります.
歴史上の独裁政権も初めから国民の私権を制限することを掲げているわけではありません.
国会は閉会して,地方政権の権限は中央政権に集中します.
現内閣への抑止力が働く機構が残されているか気がかりではあります.
感染症対策の名目で理不尽な政策をする抑制力がなくなることで,国民の生活が脅かされる可能性があります.
緊急事態宣言が発令後に,国民の権利を制限するような”条例”が制定されないか注意深く見ていきたいと思います.
ポイント
国民生活への影響では,非常事態宣言よりもMCOの方が直接的に関係する.
非常事態宣言により,政府の政策を抑制する力が弱まり理不尽な政策が施行される懸念が生まれました.
まとめ
1969年以来,52年ぶりにMalaysia全土で発令された非常事態制限令.
感染症予防のための目的で非常事態制限令が使用されたのは史上初めてです.
非常事態宣言の要点としては3点あります.
ポイント
- 国民生活には大きな影響はない
- 国会は閉鎖して,総選挙は延期
- 政府への抑制力がなくなることで,理不尽な政策が通る可能性がある
医療機関が逼迫しているために,民間の力を借りて感染症対策を行うという目的は素晴らしく聞こえます.
しかし,大量にPCR検査を行い新規感染者を出し,無症状者も含め新型肺炎の陽性者をまとめて医療機関に入院させた結果が,医療逼迫に繋がっているように見えます.
ようやく,陽性者のうち無症状者は自宅隔離に切り替える発表を保健省が出しました.
非常事態宣言を発令する前に,感染症拡大防止のためにできる手立ては残されていたのではないかというのが私の所感です.