10月の貿易収支としては過去最高だそうですね.
Malaysiaの貿易は好調そうですね.
一言で言うと,あまり良くない貿易黒字でした.
輸入品の国内需要が落ち込んでおり,むしろ警戒すべき結果だと思います.
2020年の輸出入額の統計と背景を考察していると,2021年もあまり嬉しくない貿易黒字が続きそうです.
10月の25.9%増,回復する輸出と低迷する輸入の貿易収支
貿易収支の計算方法についてまずみていきます.
貿易収支とは
貿易収支は次の式で定義されます.
ポイント
貿易収支 = 輸出額 - 輸入額
簡単にいうと,貿易でいくら手元に残ったかを表す指標で,その国の「稼ぐ力」を表すと言われています.
- 貿易収支が"+"の状況を,貿易黒字
- 貿易収支が”−”の状況を,貿易赤字
「貿易黒字=良い,貿易赤字=悪い」という簡単な構図ではなく,「悪い貿易黒字」もあれば,「良い貿易赤字」もあります.
輸出と輸入の内訳と国策の関係を見ないと一概には判断できないということだと思います.
Malaysiaの2020年10月貿易収支
Malaysiaの2020年10月貿易収支は次の結果となりました.
ポイント
- 10月貿易収支は,RM22 billionの貿易黒字
- 前年同月比で25.9%の増加
- 10月の貿易黒字としては過去最高
→ MATRADE: Trade Performance : October 2020 and January - October 2020
「おっ!」と最初は報道を見たときに思ったのですが,内容をみると単純にgood newsではないなと気づきました.
10月貿易収支の中身
仮に,輸出額,輸入額ともに同じ比率で増えていて,差額の貿易収支が増えているならば,国全体の経済が成長していることを表しています.
しかし,10月Malaysia貿易収支の中身は
- 輸出額が伸びて(実は去年同等)
- 輸入額が減った
ココがポイント
買うものが減って,売るものが増えれば,手元のお金は増える当然の話です.
「稼ぐ力」が伸びたのではなく,国内不況による購入額減少です.
10月輸出額は前年同月比0.2%増
2018年から2020年までの輸出額推移を並べてみると,2020年は10月に入って2019年同月水準まで回復しています.
2020年4月以降の輸出額落ち込みは,Malaysiaを含めた世界経済の一時的停止によるものでしょう.
輸出品目ごとの統計が興味深いです.
出典:MATRADE Trade Performance : October 2020 and January - October 2020
2020 年10月の前年同月比の比較だと0.5%の微増ですが,項目ごとにみると増減幅が大きいです.
注目すべきは,「Rubber Products(ゴム製品)」.前年同月よりも,127%増ということで2倍以上の伸び率です.
詳細の記載はありませんでしたが,医療用ゴム手袋の輸出が起因しているのではないかと思います.
「Rubber Products(ゴム製品)」は,前年同月比でRM3 billion(日本円 約750億円)増えています.おそらく,前年からの増加分は新型肺炎関連の特需と思います.それにしても,1ヶ月で750億円の輸出があるというのはすごいですね.
「石油関連商品」が前年同月比で25.6%も減少しています.
「石油関連商品」の落ち込み分を取り返すして,お釣りがくる位「Rubber Products」の伸びが大きいです.「石油関連商品」の落ち込みは,世界的な原油価格の下落に起因するものだと推測します.
家電商品の伸び率が3%増であることをみると,国外経済の回復傾向が読み取れます.
10月輸入額は前年同月比6.0%減少
輸入額の落ち込みが顕著です.
輸入品項目別に見ると,「Manufactures of Metal」「Iron & Steel Products」「Machinery. Equipment & Parts」などの設備投資・建設に関わる輸入が減少したと見られます.
出典:MATRADE Trade Performance : October 2020 and January - October 2020
輸入国別に見ると,Singaporeの30%減少の影響が大きいです.
出典:MATRADE Trade Performance : October 2020 and January - October 2020
Singaporeは三国貿易の中継国としての役割があります.Singaporeを経由してくる輸入品が大きく減少しました.
それにしても,輸入品全体の20%を中国から購入していることを知りました.
RCEP加盟及び中国の一帯一路参画で,今後もMalaysiaの中国依存は変わらないのかなと思います.
まとめ
国外の景気回復に伴い輸出額は昨年同等になりました.
一方で,Malaysia国内の経済が停滞しているせいで,産業に必要な輸入品の減少が顕著となり,結果として皮肉な10月過去最高の貿易収支最高額を記録しました.
この先のMalaysiaの貿易収支はどうなるのでしょうか?注目しているのは,
- 国内GDPの推移
- 世界的なコンテナ不足
1つ目のGDP推移については,CMCOの大幅な緩和により経済が回復することを期待しています.
2つ目の世界的なコンテナ不足については,海で運ぶための大きいコンテナ(鉄の箱)が世界的に不足しています.
海上輸送が3倍に跳ね上がったり,コンテナが欠如して輸出が滞るなどの問題が発生しています.一体,Malaysiaの貿易にどのような影響を与えるのか注意深く見守っていきます.