本記事は次の疑問に答えるように書きました.
海外駐在員についての疑問
- 海外駐在員が現地法人から求められていることは?
- 海外現地法人で「言ってはいけない真実」はありますか?
- 海外駐在員になると「global」な価値観が身につきますか?
日系企業で海外駐在員を2年している私が,「海外駐在員の意味」について考察したことをまとめました.
海外駐在員というと,海外で外国人相手に商談を取りまとめて華やかな印象があると思います.実際の海外駐在員はドラマで描かれるような天上人ではなく,地に足がついた泥臭い役割を負わされることが多いです.
私は20代でMalaysiaの現地法人に駐在員として派遣されました.
実力不十分の中,初めての海外での仕事で辛い経験もたくさんしたことで「海外駐在員のありのままの姿」を見てきましたし,「global化しない現地法人」の実態を知っています.
本記事の読者は次のような方を想定しています.
こんな方におすすめ
- いま外国で駐在員をされている方
- これから海外駐在を目指されていてる就活生・若手社員
本記事を読むと,「駐在員の意外に泥臭い部分」が見えてくると同時に,どのようにすれば海外駐在を通して自分の価値を高めてマネジメント力を身につけていくか参考になります.
ぜひ記事の最後までお読みください.
グローバル化する企業の日本的な現地法人
私は20代後半でMalaysiaに駐在してから,「海外駐在員の意味」に関する疑問が胸の中でつっかえていました.
華麗な駐在員はドラマの中
海外での仕事では英語でカッコよくプレゼンをして,拍手で受け入れられながら握手を固く握り合いながらどんどん商談が進むものだと考えていました.
海外駐在員は一目置かれる存在としてきらやかなキャリアを歩むと若き日の私は思っていました.
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実際に駐在員になると見えてくる現実
しかし,実際に駐在員になると地道な仕事が多く,花形というよりは現地で走り回って調整をするような役割が多いです.
海外駐在員だから一目置かれるということはありませんが,良くも悪くも会社を代表したり,社内では海外法人の窓口として認知されるようになります.
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社会派ブロガーChikirinさんの指摘
駐在先のMalaysiaで仕事をして1年が過ぎるあたりから私の胸の中にはモヤモヤがありました.
胸のつっかえが何だろうと悩んでいる時に,社会派ブロガーのChikirinさんの記事を読んで,心の中のモヤモヤの正体の輪郭が見えてきました.
2010年にChikirinさんが投稿された記事で,すでに10年以上も時間が経過していますが,日本企業の海外法人を取り巻く環境は大きく変わっていないません.
駐在員を目指されている方,いま駐在員をしている方は次のChikirinさんの記事「グローバリゼーションの意味」は必読です.
Chikirinさんが記事の中で指摘されていて,私も海外現地法人で働いていて感じることは次の点です.
Global化しない日本企業の海外法人
- 「組織と人」はglobal化していない
- Global化しているのは「技術と商品」だけ
- 現地国の担当者には権限を持たせず,出世の可能性もない
ポイント
日本の本社が利益を出すために,現地法人は「従属する」ことが求められています.すなわち「共存」の関係ではないということです.
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グローバル化しない日本企業の海外現地法人
海外で仕事をするにしても,日本企業の海外現地法人で駐在員として仕事をする限りは日本の社風から抜け出すことはできません.
海外現地の風土を取り入れるようにもしても,現地法人の上層部は日本人であることから現地法人の規律は「日本的」になっていきます.
日本の商品を売るために輸出された日本企業文化
日本の企業努力により,海外を旅行すると日本の名前がついた商品を目にします.
日本の先端的な技術を求める海外企業は枚挙にいとまがありません.
日本企業が持っている「商品と技術」は確かに世界で売れており世界標準と言える地位を獲得していますが,そのような商品と技術を売る日本企業は一向に世界基準となっていません.
現地の社員には「ガラスの天井」
世界で日本商品を売り出すために,一緒に日本人社員が世界の現地法人に派遣されます.
現地社員に限られた権限しか与えず,4年ごとに変わる日本人上司のもとで働き続けなくてはなりません.
海外法人の中で,日本人社員と現地社員は給料も違えば,権限も大きく異なります.
したがって,海外法人の経営方針を決めるのは日本人となっており,駐在員として海外として仕事をしているにも関わらず日本的な風土から抜け出すことができません.
海外駐在員が求められていることは「本社との連絡」
海外駐在員は自由に海外現地で仕事をできると思われるかもしれません.
日本企業の海外駐在員が日本の本社から求められている役割は「本社との連絡」です.
海外で創造的な仕事をするというよりは,次のような役割を担うことが多いです.
- 日本の本社が計画している海外戦略の現地調査
- 本社が決めた海外事業の実行役
- 海外法人の「通訳」
海外に出ると,日本で働くよりは自由な風土であることは間違いありませんが,あくまで本社の利益を最大化させるための駒であることは意識をさせられます.
海外現地法人の「言ってはけない真実」
海外駐在員として海外法人に送り込まれて,期待に胸をふくらませていると意外な事実に気付かされます.
日本では.正規雇用と非正規雇用の給与格差が叫ばれていますが,海外現地法人ではさらなる格差が「言ってはいけない事実」として横たわっています.
海外駐在員の「言ってはいけない事実」
- 海外駐在員の給与は現地職員の3倍以上
- 海外現地職員の出世には「ガラスの天井」
- 会社で評価されるためには「英語」よりも「日本語」
海外駐在員の給与は現地職員の3倍以上
日本人を1人海外駐在員として派遣する,会社の負担額は年間1,000万円を超えます.管理職を駐在員として送り出すと,2,000万円以上になります.
会社の駐在員への期待は,駐在員の生活費補助を含めた相当な額になります.
ポイント
駐在員を日本から一人送り出す年間1,000万円を払えば,海外現地で新卒者3人は雇用できます.(国の給与水準によります.)
駐在者への会社の期待が高いことは痛感しますが,一方で自分の給与について口が裂けても現地の同僚には言うことができません.
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海外現地職員には「ガラスの天井」
現地の同僚に対する「透明な天井」は,誰も口にはしませんが事実として存在しています.
日本企業の特徴ですが,「現地法人の経営上層部は日本人駐在員で占領」をしています.
言い方は悪いですが,戦時中の植民地と同じ構造です.
私と同じ年代の優秀な現地社員がいますが,彼ら彼女らには頑張って欲しいのですが,日系企業の現地法人に勤めている限りはキャリアの上限があることは悲しい現実としてあります.
会社で評価されるためには「英語」よりも「日本語」
駐在員の中には,本社とのつながりと日本語が話せることに強みを見出している人がいます.
就活生・若手社員の方は,「駐在員になるには英語が必須」と思われるかもしれませんが,実際は「英語」よりも「日本語」で仕事が進む場面が多いです.
大艦隊戦術で大企業が海外進出をした際には,部品を納入する協力会社は追随して現地に乗り込んでくれました.
日系企業は日本人を海外駐在員として派遣して,顔見知りの日本人同士で外国の地で生産を続けることができました.
したがって,海外駐在員であっても「日本語で仕事を進める」ことを自慢している人がいます.
海外でも,日本語が話せることが価値になっていた日本人にとって居心地の良い時代が長く続いていました.
他には駐在員の意義は,「日本にある本社とのやりとりにある」という指摘もあるかもしれません.日本人が英語で話すと意思疎通の質が劣化するため.確かに日本語の方がやりとりはしやすいです.
「海外駐在員が本社に報告する」ことは重要ではあるのですが,「日本語だけで心地よく作られた組織」に対して,将来的な海外での事業展開は難しいと思います.
ポイント
海外現地の社員は,赴任してきた日本人が日本語で仕事をしている様子を白い目で見ています.
海外駐在員になると「関係者の意見調整」
日系企業で海外駐在員をしている限り,日本本社との関係性は切り離せません.本社の論理と現地法人の論理をすり合わせることが駐在員の最大の仕事と言っても過言ではありません.
日本にいる同僚は海外現地のことをわかっていませんので,駐在員は現地の状況を伝えて「現場の温度感」を本社に説明しなくてはいけません.
日本の本社に勤めている,歳上の社員(いわゆる”おじさん・おばさん”)から,保守的な要求を承り,命に従い動くことも駐在員の仕事とされています.
ポイント
海外駐在員になったからといって「globalな視点」で仕事ができるわけではなく,むしろ「海外現地の意見」と「日本の本社のlocalな視点」の間で調整が必要となります.
「駐在員の価値」は,現場の声を集めて仕組みづくり
日系企業に勤める海外駐在員が会社から求められていることについて前の章にて解説をしました.
本章では,海外駐在員が駐在中に仕事の価値を高めるためにどのような行動規範が必要かについて考えてみます.
日本語ができることを理由に海外駐在員の意味にしたくないという思いが私にはあります.
いままでは本社が作った規則をMalaysia現地法人に適合させる橋渡し的な役目しかできていませんでした.
私は失敗が連続した駐在員経験を反省をしながら「駐在員の価値に対する答え」と「駐在生活を成功に導くための姿勢」に関して次の3つのことが大事だと結論に至りました.
駐在員の価値
- 現地法人に合わせた仕組みを本社に対して提案できる
- Online会議で現地社員にも意思決定してもらう
- 現地法人の同僚,協力会社との信頼関係構築
現地法人に合わせた仕組みを本社に対して提案できる
私は日本の本社に勤めていたときは,「本社の人間」としての視点しかありませんでした.
海外駐在員になることで,「海外法人の一員」の視点から仕事をすることになり,時には本社と対立した意見を述べることになります.
本社の理論を理解した上で,現地法人に適した業務提案が必要となります.
特に本社の同僚からは「海外現地社員の業務遂行能力」が正しく評価されていないので,できない依頼はできないと断る勇気が必要です.
Online会議でも現地社員にも意思決定してもらう
武漢肺炎の流行の副産物として,onlineを中心とした会議が主流となりました.
今までは,下のような連絡系統でした.
- 本社の会議で方針決定
- 海外法人駐在員に決定内容連絡(日本語)
- 駐在員が現地同僚に英語で連絡(日本語から英語に翻訳)
日本の本社で閉じられていた会議に,海外現地法人からも気軽に参加す流ようになりました.
従来は日本語を中心とした連絡の中で海外法人への意思疎通が遅れていましたが,onlineによる連絡が主流になると,英語を基本とした連絡により現地法人とのやりとりは改善してきています.
日本人同士の社内会議で英語化は全面的に行う必要はないですが,海外法人が関係する会議,連絡はすべて英語で行うようにしたほうが良いです.
現地法人の同僚,協力会社との信頼関係構築
現地法人からすれば,今まで本社が決めたことに従うだけで,蚊帳の外に置かれたような疎外感がありました.
英語でのonline会議を本社と現地法人の関係者を結んで行うことで,一体感を生み出すことも期待できます.
副産物ですが,online会議を英語で行うことで駐在員の”翻訳”業務を減らして,現場でやらなくてはいけない仕事に駐在員の時間を当てることができます.
本社を向いた”内向きな仕事”から,現地に根付いた”外向きな仕事”に私も転換していきたいです.
まとめ:思い描いた海外駐在員でなくても,努力次第で業務の可能性は広がる
海外駐在員は贅沢な生活を送っていて,仕事は思うように進められていると思われやすいです.
しかし,実際は日本の本社との折衝があり,しがらみの中で海外での業務を進めていくことになります.
駐在員になると,本社からは「連絡役」を求められますが,さらなる価値を生み出すには単なる「通訳」になるのではなく本社に対して逆提案する気概が必要です.
駐在員になり始めは本社の意見調整役になることもありますが,駐在2年目から本社に対して「逆提案」できるように海外法人の問題点と改善策を把握できるようにすることが必要です.
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